2012年7月10日火曜日

負の数

量を決めるに当たって、大切な法則があるんですね。
1の性質と、0の性質です。

①どんな数に1を掛けても、変わることはない。
②どんな数に0を掛けても、0になる。
③どんな数に0を足しても(引いても)、変わることはない。

これを数学では
a×1=a
a×0=0
a+0=a
a-0=a
と書きます。
大事な法則です。



さて、引き算を考えてみます。
たとえば、5-3=2
足し算では、5+3=8の数字をいれかえた、
3+5=8も成り立ちますね。(このことを和の交換法則といいます.)
しかし、引き算では
「3-5=?」となり、意味のない式になってしまいます。
つまり、「引き算」という考えのみでは引き算に交換法則はないということです.
しかし、交換法則とはなかなかシンプルで使い勝手のよいものです.
できれば、「引き算」にも適用できたら…と考えたいところです.
そこで、こういったものを考えましょう:

”引き算の代わりにもなり、かつ交換法則も適用できるようなものを作ろう.”

そういった数字をどう定義するか、が問題なわけですが...
和の交換法則を上手く使おうという方針でいきましょう.

そうなると、考えるべきことは
「”引き算”を足し算で表せるのかどうか?」
ということになります.

もし"引き算"が足し算で表せられるなら、めでたく和の交換法則が適用されるので
事実上、”引き算”も交換法則が成り立つということになります。

そうして、あるところに到達します。「負の数」の導入です.
任意の正の数aを考える.そのaについて負の数「@a」が存在して
(aは0より大きい数字,今のところそういった数字しか"この世"にはありません.)
a + @a = 0
が成り立つ.

実際、aに足したら0になる数字なんてないですよね(正の数の範疇なら)
ある意味「でっち上げた」わけです.
「@a」というのは「aを引く」という「引き算の概念」が含まれてます.
しかし、大事なのが、負の数は決して「演算」ではないのです.
少し頭がこんがらがりますが、
何かを「引く」という概念を「演算」に与えるか、「対象」に与えるかは自由です.
演算に与えた場合、存在する対象は「正の数」のみで
そのかわり、演算は「足し算」と「引き算」が存在することになります.
対象に与えた場合、演算は「足し算」のみになりますが、
その代わりに、対象は「正の数」と「負の数」が存在することになります.

どちらに「引く」という責任をなすりつけるかで、二つの場合があるわけですね.
負の数においては、演算としての「引く」も対象としての「引く」も両方存在します.
それは、どちらも扱いが容易、想像が容易ということがあるからでしょう.

実は、「割る」という概念を演算に与えた場合が「割り算÷」、
対象に与えた場合が「分数」と考えることができます.
そうした場合、演算としては「掛け算×」のみが存在することになります.
これも都合がよく、掛け算は交換法則が成り立ちますが、
割り算は交換法則が成り立ちません.

よって、「交換法則が成り立つ世界」では、演算は次の二つです.
足し算 +
掛け算 ×
そして、「引き算」「割り算」の概念を対象に押し付けます.
よって、この世界での対象は、次の3つが存在して、
正の数
負の数
分数
となります.実にシンプルな法則「どんな数も入れ替えられる」が成り立つ世界です.
(しかし、2×3+4×5にかんして、3と4を入れ替えることはできないですね.
これは「演算の優先順位」というものが関係しています.)

最後に、負の数についていくらかまとめてみます。
定義:
任意の正の数aについて、@aが存在して、
a + @a = 0が成り立つ。この@aを負の数という.

性質:
a + @a = 0
これを逆に書いた、0 = a + @a を証明に多用します.
もちろん、和の交換法則より、
@a + a = 0です.

以下、a,bは任意の正の数とします.
① a + @b = a - b
証明) a + @b = a + @b + 0 = a+ @b + b - b = a + (@b + b) -b = a - b;
これにより、確かに@bには「bを引く」という概念が含まれていることがわかります.

② @b = b×@1
証明)
まず、@1 + 1 = 0です.両辺に、bをかけると、
@1×b + 1×b = 0
@1×b + b = 0
よって、定義より @b = @1×b;
これより負の数には、基本となる単位が存在することが分かります.
それが@1であり、任意の正の数はその単位を掛けることによって、
対応する負の数に変換することができます.

③@(@a) = a
これはみんなを悩ませるものですね。こう書くとわかりやすいですか?
10 - @4 = ?
つまり、「負の数を引くことはその正の数を足すことになる」ということです.
10 - @4 は①を用いて、 10 +@(@4) とできます.
@(@4) = 4 ですから、 10 - (@4) = 10 + 4 = 14 となるわけですね.
証明)まず、②を用いて
@(@a) = @1 × @a
ここで、a + @a = 0の両辺に@1を掛けると
@1 × a + @1×@a = 0
定義より、@1×@a = @(@1×a) = @1×(@1×a)
最後に@1×@1 = 1を証明すればいいですね.
1 + @1 = 0 両辺×@1
@1 + @1×@1 = 0
両辺に1を足すと,
@1 + 1 + @1×@1 = 1
0 + @1×@1 = 1
よって、命題は示された.

普通、負の数を表すときは aの負の数を -a と表します.
このハイフンは、演算の引き算から借用しているのは明らかです.
実際、このような記号を用いたほうが直感的にわかりやすくなります.

a + (-a) = 0
中学生にも教えやすいですね,「+かける-は-なんだよー」というのはよくある覚え方です.


数から値へ

数(かず)から値へ にはなかなかの革新がある。
数(かず)は、個数とも言えましょう。
1個、2個、…という風に。感覚的には"切りの良い"数字ですね。

一方で、では、値とはなんでしょう。値は、量とも言えましょう。
1.2mとか、5.1mとか、量では "切りの悪い" 数字が出てきます。
それはなぜかといえば、かずが離散的であるに対して、値が連続的であるからです。

数学は、かずではなく、値をメインに考えていきます。
そこで、数を「かず」から「すう」と格式ばって言っています。

そして、量をさらに拡張していくのです。そのために便利な道具が、数直線です。